2008年10月 2日

癌と細胞老化とエピゲノム変化

エピゲノム勉強会  2008年10月2日  癌と細胞老化とエピゲノム変化

<文献>

1)Suv39について
Braig M, et al.
Oncogene-induced senescence as an
initial barrier in lymphoma development.
Nature 2005

2)PRC2について
Bracken AP, et al.
The Polycomb group proteins bind throughout the INK4A-ARF locus and are
disassociated in senescent cells.
Genes Dev 2007

3)Jhdm1について
Members of a family of JmjC domain-containing
oncoproteins immortalize embryonic fibroblasts
via a JmjC domain-dependent process.
PNAS2008

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Cellular Senescence 細胞老化とは

細胞老化は細胞増殖に対するバリアー
癌化抑制に働いていることがvivoにおいても確認。(Collado et al. 2005)
培養したヒト細胞が分裂せず増殖停止した状態に陥ることがもともと。(Hayflick, 1965).

activated oncogenes, chemotherapeutic drugs, oxidative stressなどのストレスにさらされると早期細胞老化に陥ることが知られる。(Serrano et al. 1997)

特徴:
形態変化
細胞老化関連βガラクトシダーゼ発現
p16発現上昇など発現変化

pRBとp53が重要
p53安定化によりp21が発現し細胞周期をネガティブにコントロール
pRBは低p16状態ではリン酸化・不活性型で、転写因子E2Fは転写を誘導する。p16が誘導されるとpRBは低リン酸化・活性型となりHDAC, SUV39H1, SUV4H20, HP1をリクルートしてE2F標的プロモーターをヘテロクロマチン化しSAHF (senescense associated heterochromatic foci)を形成する。

SUV39H1 は H3K9をメチル化しヘテロクロマチンを形成。
Activated N-Rasを発現するトランスジェニックマウスにおいて、Suv39h1 lossはリンパ腫増加、SAHF減少、細胞老化回避と相関。(Braig et al. 2005)

INK4A-ARFの誘導に、H3K27脱メチル化が重要。(Bracken et al. 2007)

JHDM1B, JHDM1A(ヒストン脱メチル化酵素)による細胞老化阻害(Pfau et al. 2008)
JHDM1B: H3K4me3, H3K36me2/me1 demethylase
JHDM1A: H3K36me2/me1 demethylase
Fig. 1
Moloney murine leukemia virus (MoMuLV)による44個のT-cellリンパ腫をスクリーニング。プロウィルス組み込みはランダムに起こるが、複数の腫瘍で共通して組み込まれた部位はselective advantageによるものと思われ、癌遺伝子スクリーニングの手法として用いられる。149種類の組み込みのうち6種はNdy1/Jhdm1b直上に同定。Ndy2/Jhdm1a直上にも同定。発現上昇をNorthern, Westernで確認。

Fig. 2
MigR1レトロウィルスベクターにJhdm1bを挿入。
最終的にはMigR1もJhdm1b-MigR1もMEFは不死化するが、Jhdm1b-MigR1-MEFのみreplicative senescenceを回避した。Jhdm1aも同様。

Fig. 3
Deletion construct.
Jmjcドメインを残したconstructで不死化。
Jmjcドメインがない、あるいはmutant constructでは増殖がより落ちた。
WesternでもJhdm1b constructを感染させた細胞がpositive selectionされ、ΔJmjcを感染させた細胞はcounterselectされていることを示す。
Jhdm1aでのmutant constructも同様。

Fig. 4
強制発現でなく、endogenous Jhdm1bを見るためにsiRNAで実験。
MEF, およびJhdm1b発現させたMEFで、Western。
Jhdm1b knock downにより、増殖低下、SA-gal染色陽性。

Fig. 5
不死化のために、老化に重要なRb, p53を標的としているか。
Ser807/811リン酸化RbがJhdm1b感染細胞で特異的に検出。
しかし、p53およびそのターゲットp21もJhdm1bで発現誘導。P21発現はp53依存的であることをp53-/-細胞で確認(SI Fig. 14)
Jhdm1bは、老化に重要なp53, p21を発現誘導してしまうのだが、それは細胞増殖を抑制できず、Rbリン酸化・不活性化により細胞老化を回避していると考えられる。
実際、p21強制発現ではMEFは老化し、p21+Jhdm1b強制発現ではJhdm1b強制発現とほぼ同様に不死化する。
P21感染細胞はcounterselectされるが、Jhdm1bと共感染させるとpisitive selectionされる。
 
The Polycomb group proteins bind throughout the INK4A-ARF locus and are disassociated in senescent cells. Bracken et al. GENES & DEVELOPMENT 2007

要旨
p16INK4Aやp14ARFをコードするINK4A-ARF locusは細胞老化のキーレギュレータであるが詳しい制御メカニズムについては知られていない。今回、癌遺伝子であるBMI1がPRC2依存性にINK4A-ARF locusに直接作用してはp16やp14の発現を抑制することがわかった。EZH2はストレス下の細胞や老化細胞で発現低下が認められており、H3K27Me3の減少とBMI1の解離を引き起こし最終的にINK4A-ARF locusの発現回復し、細胞老化を誘導している。

Fig.1 ChIP-PCR(K27me3, EZH2, CBX8, SUZ12, BMI1)をA. TIG3-TERT human embryonic fibroblast, B. CD34陽性骨髄細胞で行った。K27me3, EZH2, CBX8, SUZ12, BMI1は似た局在パターンを示している。CD34陽性骨髄細胞ではINK4BやARFにもK27me3、EZH2、CBX8の局在が見られる。この細胞はEZH2を高発現しており、INK4A, INK4B, ARFの発現にPolycombが関わっている可能性がある。

Fig.2 A B. TIG3-TERT HEFでBMI1を強制発現するとINK4Aの発現が抑制される。C. 同時に第一エクソン付近のBMI1、CBX8の結合が増加しておりPRC1の関与が考えられる。D. またINK4Aのプロモーター領域では抑制性のヒストンバリアントであるmacroH2AやEZH2, SUZ12, K27me3が増加し、K4me3が減少していた。このことからPRC1のコンポーネントであるBMI1はINK4Aのプロモーター領域とそれに続く下流のコーディング領域に直接結合してクロマチンの変化とポリメラーゼの解離を引き起こすことが示唆された。

Fig.3  A B. MEFで継代を重ねるとEzh2, Ink4a,の発現が低下してくる。C D.  Ink4a-Arf locusではEzh2, K27me3, Bmi1, Cbx7, Cbx8, Suz12が継代を繰り返すにつれ減少し、PolymeraseⅡは増加している。細胞老化でもPRC2がPRC1がINK4Aの発現に関与していると考えられる。

Fig.4  A B. shRNAでEZH2, SUZ12を抑制するとINK4Aの発現低下が見られる。C. ChIPを行うとINK4A-ARFプロモーター領域のEZH2, SUZ12, K27me3, BMI1, CBX8の濃縮に変化が見られる。D. shRNA(EZH2, SUZ12, BMI1)を行うと細胞老化が誘導される。

Fig.5 細胞老化におけるポリコームによるINK4A-ARF locus制御モデル

 
                               2008/10/02 エピゲノム勉強会
Oncogene-induced senescence as an initial barrier in lymphoma development
Nature 436, 660-665 (4 August 2005) | doi:10.1038/nature03841; Received 19 January 2005; Accepted 26 May 2005
Acute induction of oncogenic Ras provokes cellular senescence involving the retinoblastoma (Rb) pathway, but the tumour suppressive potential of senescence in vivo remains elusive. Recently, Rb-mediated silencing of growth-promoting genes by heterochromatin formation associated with methylation of histone H3 lysine 9 (H3K9me) was identified as a critical feature of cellular senescence, which may depend on the histone methyltransferase Suv39h1. Here we show that E -N-Ras transgenic mice harbouring targeted heterozygous lesions at the Suv39h1, or the p53 locus for comparison, succumb to invasive T-cell lymphomas that lack expression of Suv39h1 or p53, respectively. By contrast, most N-Ras-transgenic wild-type ('control') animals develop a non-lymphoid neoplasia significantly later. Proliferation of primary lymphocytes is directly stalled by a Suv39h1-dependent, H3K9me-related senescent growth arrest in response to oncogenic Ras, thereby cancelling lymphomagenesis at an initial step. Suv39h1-deficient lymphoma cells grow rapidly but, unlike p53-deficient cells, remain highly susceptible to adriamycin-induced apoptosis. In contrast, only control, but not Suv39h1-deficient or p53-deficient, lymphomas senesce after drug therapy when apoptosis is blocked. These results identify H3K9me-mediated senescence as a novel Suv39h1-dependent tumour suppressor mechanism whose inactivation permits the formation of aggressive but apoptosis-competent lymphomas in response to oncogenic Ras.
Intro  Rasの急激な誘導がRb経路がかかわるsenescenceを引き起こすが、H3K9meを伴ったヘテロクロマチン形成による、Rbを介したsilencingがsenescenceの特徴であることが明らかにされた→senescenceがH3K9 methytransferaseであるSuv39h1に依存するのではないか?

Figure1a) N-Ras constitutive active transgenic Suv39h1-(Suv39-/- female とSuv39-/y male:赤), Suv39+/-:オレンジ, p53+/- :青, コントロ-ル:黒. コントロ-ルと比較して残りの3群は有意に早期に死亡する.
Figure1b) 180日以内に死亡したマウスはリンパ芽球性T cellの浸潤による胸腺・脾臓の腫大、肺への浸潤を認めたが、肝腫大は見られず、一方180日以降に死亡したマウスは肝臓、脾臓の増大は認めたが、胸腺や内臓への浸潤は少なかった.
Figure1c) 早期死亡マウスと晩期死亡マウスのT cellマ-カ-であるCD90と骨髄系のマ-カ-であるCD11bの比較. 早期群はT-cell系、晩期群は骨髄系.

⇒Suv39h1もしくはp53の欠損していることが、Rasによって起こるリンパ腫の発生を防御する腫瘍抑制機構を 破綻させている

Figure2a) Suv39h1+/-マウスに発生したリンパ腫ではSuv39h1は発現していない. p53+/-マウスに発生したリンパ腫ではwt p53は発現していない
Figure2b) Suv39h1およびwt-p53を発現していないマウスのリンパ腫ではp16INK4Aの発現が亢進し、N-Rasの発現は一定していない
Figure2c) (左)Suv39h1-nullおよびp53-nullリンパ腫細胞においてp16INK4AのGFP陽性分画はコントロ-ルと比べ多い. (右)ARFに関してはp53-nullでのみ多い
Figure2d) Suv39h1-/+もしくはSuv39h1-のリンパ腫ではwild typeのp53は発現している..

⇒リンパ腫が成長する間のRasに対する応答に対し、Suv39h1の不活性化はp53を一緒に不活性化させるための"pressure"を緩和している. しかしながら、Suv39h1-nullのリンパ腫がARF過剰発現のようなp53を活性化する外因性のトリガ-に対して非常に感受性を保ったままでいる

Figure3a) Suv39h1-nullのlymphomaのkaryotype・・・chromosomally stable
Figure3b) Suv39h1-nullのlymphomaから樹立した細胞(赤)はcontrol(黒)と比較してほとんど細胞数が変わらないが、p53-nullの細胞(青)は増殖が早い
Figure3c) p53-null リンパ腫の細胞(青)はアドリアマイシン誘導性細胞死に対し抵抗性
Figure3d) apoptosisを抑制するbcl-2を感染させた、リンパ腫から樹立した細胞において、controlでアドリアマイシン処理を行ったもののみsenescenceが誘導されている.

⇒Suv39h1の発現がなくなることが、apoptosis経路を減弱させることなくRas誘導性のリンパ腫をsenescenceにならないようにしている

Figure4a)Suv39h1+/+およびSuv39-/-の脾細胞に活性化Rasをトランスフェクション. Suv39h1+/+では増殖能が低下している.
Figure4b)RasをトランスフェクションしたSuv39h1+/+脾細胞でβ-gal陽性細胞が多い
Figure4c)RasをトランスフェクションしたSuv39h1+/+細胞でH3K9me3が増加している

⇒Suv39h1によって誘導されるH3K9のメチル化に関連したsenescenceは、リンパ球においてRasのシグナルに対する初期のバリアとして働いている.

Figure5)N-RasトランスジェニックマウスにTSA(HDAC阻害剤)とDACを投与. 投与群でSuv39h1欠損マウスと同様にT細胞性リンパ腫が発生し、早期に死亡する.

⇒Suv39h1によるヒストン修飾が腫瘍抑制機構としてsenescenceをコントロ-ルしており、in vitro ではRas応答性のtransformationを直接制限し、vivoではRas誘導性のリンパ腫の形成を抑制している.

⇒⇒K3K9meを介する老化がSuv39h1依存性の新規腫瘍抑制機構であることを示しており、その不活性化によりRasに応答して、悪性だがapoptosis感受性のリンパ腫の形成がおこる.