2008年8月28日

脱メチル化酵素とトライソラックス蛋白(MLL)の複合体の機能


The histone H3K27 demethylase JMJD3 links inflammation to inhibition of polycomb-medited gene silencing
Santa et al.  Cell 130, 1083-1094 2007

概要 マクロファージが炎症性シグナルで活性化されるとき、JMJD3はH3K27の脱メチル化酵素としてポリコームによる遺伝子サイレンシングを解除する。JMJD3はポリコーム標的遺伝子に結合し、エピゲノムを変える。一般には細胞分化に用いられるポリコームによる遺伝子サイレンシングの解除と炎症が関係することは重要である。

イントロダクション
 H3k27は発生途上の重要な遺伝子座でメチル化によりサイレンシングを引き起こす。これはSET(suppressor of variegation, enhancer of zest, trithoraxに共通)ドメインをもつメチル化酵素であるEZH2の複合体によりになわれる。」EZH2はSuz12 (suppressor of zeste 12), EadとRbAp48とPCR2(ポリコーム抑制複合体2)を形成する。ゲノムワイドな解析によりPCR2は、Hox など発生にかかわる転写因子、wnt系、TGFb遺伝子群を制御する。ところが再生や炎症の研究はこうした細胞の脱分化をもたらすことを示してきた。
 脱メチル化酵素としてはLSD1が最初、H3K4脱メチルと報告されたがその後H3K9が中心と考えられる。そこでLPS刺激後のマクロファージの遺伝子発現を解析すると、JMJD3が誘導されてきた。そこで筆者らはJMJD3がH3K9脱メチル化を想定して実験を始めたがH3K27の脱メチル化だったので報告する。

図1 LPS刺激でのRaw264.7細胞での遺伝子発現誘導 JMJD3が特異的に上昇する。
これは60--120分でピークで、J774でもプライマリーマクロファージでも同じ。3T3にはない。マウスマクロファージではTLRリガンドで誘導され、Myd88を必要とする。ウサギポリクロ抗体で蛋白も誘導される。

図2 NFkB経路の関与
IkB のリン酸化サイト2カ所をセリン→アラニン変異させたsuper suppressor (SR) を発現させるとJMJD3発現は抑制されるのでNFkBが必要とされることがわかる。プロモーターにはNFkB結合サイトがなく、第一イントロンに2つの結合サイトがあり、2-C,2-Dのrfegion2に結合する。さらにH3K4トリメチルはマクロファージではこの部位にロバストに(2E-右側)ある。そこで炎症性誘導のtranscription start siteがこちらなのかもしれない。

図3 JMJD3が重要である
3-A JMJD3は鉄結合ドメインとαケトグルタール酸結合ドメインがあり、UTX,UTYと同じサブファミリーである。3-B 矢印のJMJD3蛋白は核にLPS刺激2時間後に発現する。
3-C JMJD3過剰発現はH3K27トリメチルを減少させる。
3-D  3-E  JMJD3がトリメチル、ジメチルの順で減らさせる。

図4 骨髄細胞ではHoxA遺伝子が標的である。Chip アッセイでみる標的遺伝子
4-A JMJD3mRNAの骨髄プロジェニター細胞での発現とマクロファージとの比較。4-B 細胞の種類ごとにHoxAの発現が違う。

図5 shRNAで解析するとマクロファージでのJMJd3によるH3K27脱メチル化は遺伝子特異的である。マクロファージ特異的マーカーの発現は変わらない。5-D H3K27Me3レベルは半分に減る。
PGCの標的としてしられるBMP2ローカスでみるとLPSによる24時間後のmRNA誘導が消失する(5E)。

図6 JMJD3が存在するRbBP5複合体
H3K4メチル化とH3K27脱メチル化が協調しておこる。MLL2とUTXが複合体を作る事が報告されているので、Wdr5, RbBp5, Ash2Lがほ乳類ではMLLと複合体を作るので、RbBp5との複合体形成をみた。FLAGJMJD3はこれらを共沈する。LPS添加後にはRbBP5抗体でJMJD3が沈降する。

Discussion
UTX はX染色体にあるがXクロマチン不活性化をうけず、2つのアレルの発現が必須、UTYはY染色体になり、いずれもハウスキーピングと考えられるのに対し、JMJD3は誘導型の脱メチル酵素なのであろう。JMJD3の標的は骨髄前駆細胞ではHoxA遺伝子なのに対し、マクロファージではBMP2であった。MLL複合体にJMJD3が取り込まれることは、MLL複合体に通常ある脱メチル酵素がスイッチされる可能性がある。

我々の発見しているUTX/MLL3→JMJD3/MLL5→JMJD6/MLLという転写のカスケードを見ると、ChIP on Chipで、ゲノム上でのタンパク質レベルでの変化をきちんとおう必要が大きいであろう。