2008年7月 9日

Polycomb silencing mechanisms and the management of genomic programmes

SETを理解する。Suppressor of variegation, enhancer of zeste and trithorax、この3つを理解する。Su(v)は前のPEVの回、E(z)とtrxは今回で基本を知る。そしてメチル化酵素のなかでどれをエピゲノ ム創薬の標的とするか考える基礎としたい。 今回は、ポリコームPcGがエピゲノム制御にかかわることの発見の経緯を知る。PcGの3つの複合体、K27メチル化のPRC2, それを認識してH2Aユビキチン化によりまわりの染色体を変えていくPRC1, PHOとMBT複合体、一方、PcGと拮抗するTRX複合体の構造を理解する。 PcGとTRXをよびよせるPREを理解し、それに伴うクロマチン構造変化仮説を考える。

Polycomb silencing mechanisms and the management of genomic programmes
Yuri B Schwartz and Vincenzo Pirrotta Neture Reviews Genetics 2007, vol8 9-22

概要 ポリコームグループ複合体PcGはショウジョウバエのホメオティック遺伝子群を制御し、数百のほ乳類遺伝子も制御する。最初はサイレ ンシングとクロマチンのパッケージングにかかわると考えられていたが、K27のメチル化にかかわるとわかってきた。今日ではポリコーム(PcG)は染色体 全域のエピゲノム制御を強化し、それとK4のメチル化をになうトリソラックスTRXが競合的に働く。このポリコームPcG/トリソラックスTRXの競合的 作用で、細胞の分化にかかわるときにエピゲノムがリプログラミングされることがわかってきた。

イントロ
図1 PcGは最初ショウジョウバエにおけるホメオ遺伝子の異常な発現を抑える遺伝子として同定された。ショウジョウバエのホメオ遺伝子Ubxは 胎児初期と胎児後期と成虫原基(imaginal disc)の頭と羽と平均棍(図の羽の下にみえる突起)を制御する。Ubxプロモーターには3つのエンハンサーが働き、その組み合わせで、働く場所がかわ る。一番下が3つのエレメントが働いた場合を示す。  青の胎児エンハンサーでだけは初期には体の後ろのほうで働く。後期には、全体で発現してしまう(前半の抑制の消失)。成虫原基では発現しない。それに polycomb responsive element(PRE)が加わると、胎児後期の発現も正常化する。  成虫原基エンハンサーだけでは、胎児の発現が抑制され、成虫原基全体で発現する。これにPREを加えるとすべて抑制される。  胎児エンハンサーと成虫原基エンハンサーを合わせると、胎児後期の全体と、成虫原基の全体に発現する。これにPREを加えると、胎児後期も成虫原基では 平均棍の後半だけの限定的な(正しい)発現になる。PREは胎児後期と成虫原基の遺伝子発現の、胎児前期の特異的な抑制の固定化を通じて、発現を制御して いることがわかる。  このPREの作用はショウジョウバエではペアとして存在する相同遺伝子の両方にあらわれる。

補足重要用語1 Transvection ハエでは相同遺伝子がペアとして存在する。このときPcGの作用は両方の遺伝子にあらわれる。これをtransvectionといい、PcGの効果が酵素として近傍のクロマチンも変化させていくことによる。
重要用語2 zeste ショウジョウバエでtransvectionにかかわる遺伝子として発見された。クローニングされてロイシンジッ パーをもつDNA 結合タンパクとわかり、ロイシンジッパーで多量体を作り、染色体のループを作らせUbxを活性化する。同時にPcGを動員してサイレンシングする。
 ショウジョウバエではzesteは、GAGA因子と、NTFIと3つが同じようにリダンダントに働く。しかしzesteおよびGAGAはPcGを動員で きるが、NFTIはPcGを動員できない。 Zesteによるwhiteのサイレンシングをマーカーにenhancer of zeste= E(z)とsuppressor of zeste = Su(z)がクローニングされた。例えばE(z)はサイレンシングをうながすポリコーム複合体のメチル化酵素などであり、Su(z)2(ヒトでは MEL18)は、ヒストンH2Aの近傍のMAPKAPキナーゼ3pKによるリン酸化を認識してRing1Bのユビキチン化を助け、選択した遺伝子の活性化 持続にかかわる。

PcGの3つの複合体
図2 PREに結合する3つのPolycomb複合体(polycomb repressive complex)と、同じところに結合しながら競合的に働くトリソラックス(TRX)複合体が知られる。 PRC1は4つのコアタンパク質とそれに付随するzeste, TATA 結合タンパク(TBP)からなる。 PC (ポリコーム) クロモドメインをもちH3K27Me3に結合する。 マウスではたくさんのクロモドメインのホモログある。 PH (ポリホメオティック) RING(別名 SCE) ユビキチンリガーゼE3のringドメイン H2A K119のモノユビキチン化 PSC (Posterior sec comb) ringドメインをもちRINGのコファクター マウスではBMI1またはMEL18 PRC2のsu(z)2と区別できない。 Su(z)2(ヒトではMEL18)は、ヒストンH2Aの近傍のMAPKAPキナーゼ3pK によるリン酸化を認識してRing1Bのユビキチン化を助け遺伝子の活性化持続 ヒトおよびマウスのPRC1複合体は HPC1,2,3、HPH1,2,3、RING1Aおよび1B、BMI1/MEL18からなる。

PRC2複合体 4つのコアタンパク質E(z), ESC, Su(Z)12, P55それにHDACのRPD3やPCL, 幼虫の複合体では、NAD+依存的なHDACのSIR2も含まれる。 E(z)は、H3K27メチル化酵素で、ヒトではEZH2がこれに相当する。 ESCまたはESCLはWD40ドメインをもち、E(z)のコファクター。 P55(RBAP46/48)は、CAF1に共存するヒストン結合のクロマチン因子である。

第三の複合体はPHO複合体である。これはDNA結合タンパク(Zinc finger)のPHO(マウスのYY1,YY2)と、SFMBT(CG16975)これがヒトではL3MBTL1,L2というH1K26,H4K20も のメチルを認識するクロマチン凝集因子である。

一方TRX 複合体は次のコアタンパク質からなる。 TRXはヒトではMLL1,2,3,4,5のホモログ H3K4メチレース ASH1はヒストンメチレースだが、H3K4に加えてH3K9,H4K20もメチル化できる。ヒトでは、H3K36メチル化との報告がある。 ASH2またはASH2Lは、H3K4メチル化にかかわると考えられている。 これに加えてSWI/SNF複合体のヌクレオソームスライディングにかかわるATPaseとその小ファクターなどがある。

その関係をまとめたのは次の文献2の図1がわかりやすい Polycomb complexes and epigenetic states  Yuri B Schwarz and Vincenzo Pirraotta Current Opinion in Cell Biology 2008, 20, 266-273 PRC2はH3K27をメチル化し、それをPCが認識し、dRINGがH2AK119をユビキチン化する。一方、PHOはH4K20(またはH1K26)を認識しクロマチン凝集をおこす。 一方zesteやGAGA因子はクロマチンのループ化をうながす。 PRE (polycomb rescpoinsive element)への動員 TRXと競合する。

文献1図3  ショウジョウバエでは、数百塩基のPREが遺伝学が同定されているが、そこに何らかのDNA結合タンパク質の結合が必須と思 われる。ハエではPHOでそういう役割が証明されている。またchip解析からE(z)やPSC結合部位がPREであることもわかっている。PRE はヒストンがよく交換されている場所である。ZesteやGAGA因子結合配列も重要である。実際にはH3K27のメチル化がPcGの結合に重要であ る。(PRC2,PHO→PRC1)  トリソラックス複合体(TRX)はPREに結合しうる。TRXのヒトホモログはMLL1とよばれるH3K4メチル化酵素である。MLLという名前はこの 遺伝子の転座がさまざまな白血病になるからである。TRX複合体のもう一つの H3K27脱メチル化酵素は、UTXとJMJD3という2つの酵素がわかっている。この酵素はH3K4メチル化酵素のMLL3とMLL4(別名MLL2ま たはALR)と協調的に働く。そこでH3K4メチル化とH3K27の脱メチル化の協調的作用が注目される。

文献1図4 K27Me3,PC,E(Z),PSCの結合部位
PRE Binding versus spreading PCとヘテロクロマチンタンパク質のHP1はクロモドメインを共有する。これらは結合してから染色体の上を広がっていく(spread)ため多数の分子を 必要とし、dosage effectがみられやすいと考えたくなる。酵母ではこうした現象がRAP1に結合したSIR複合体で知られる。 だが高等動物では、PRC1とPRC2はPREにとどまっている。 そこでzesteなどの機能から遠くはなれたクロマチンにループを作らせる機能が考えられている。 文献1図5 これから見た仮説 H3K27に加えてH3K9およびH4K20がサイレンシングにかかわる。 文献2 その後の展開 UTXとJMJD3のH3K27脱メチル酵素としての発見。さらにUTXはH3K4メチル化のTRXホモログのMLL3,4と共局在することが発見されて いる。 我々のHUVECでのTNF刺激の解析では45分でJMJD3とMLL5が一緒に誘導されている。 なお文献2の図2はPcGとTRXの競合の生み出す4つの効果を示す。