2008年6月13日

SUMOによる遺伝子サイレンシング複合体

文献1
Genome-wide mapping of Polycomb target genes unravels their roles in cell fate transitions

ポリコームグループタンパク質(PcG)はクロマチン修飾複合体を作り、胎児発生とES細胞維持に働き、がんで異常制御を示す。ヒトのES細胞でその標的 遺伝子をchip-chipで同定した。Polycomb Repressive Complex-1 (PRC1)は、10以上のタンパクからなりがん遺伝子のBMI-1とHPCタンパク質群のCBX2,CBX4,CBX7,CBX8、HPH1-2, RING1-2, とSCMLなどからなる。PCR-2はEZH2(H3K27とHiK26のメチル化酵素), FED,SUZ12とRbAp48からなる。1000以上のサイレンスされた遺伝子ではPCR-1,PCR-2, H3K27Me3が同じ場所に位置する。PRC-2のEZH2, FED,SUZ12およびPRC-1のBMI-1のRNAiで抑制がはずれて発現上昇の40の遺伝子の中には脂肪細胞分化、軟骨分化の遺伝子もある。神経 細胞への分化系で2つのPcGのかかわるメカニズムを解析した。PcG標的遺伝子で分化に伴い活性化するときには、PcGははずれていなくなる。ところ が、分化の途上で発現が抑制される遺伝子群ではPcGがすでに結合している場合が多い。これらの結果はPcGは事前にプログラムされた記憶システムで、分 化過程において特定のマークされた遺伝子を抑制する役割をもつと思われる。

PcGは転写抑制系と考えられている。脊椎動物のHox遺伝子群はAからDの4つのクラスターにわかれ、それぞれ13個の遺伝子からな り、前から後ろに対応する。Tail HOX遺伝子は、HOX Aローカスの5'側のHOXA 7-13は胎児の後ろ側に発現する。PcGのノックアウトマウスでは、頭と真ん中でのこれら遺伝子発現の抑制がおこらず、前後軸がでたらめになる。 PCR-2のEZH2はH3K27とHiK26のメチル化酵素だが、PRC-1のHCPタンパク質群はH3K27Me3に結合する。PRC-1はまた H2AK119 ユビキチン化のE3リガーゼ機能をもつ。PcGは胎児発生期だけでなく成人における幹細胞のrenewalにもかかわる。EZH2の過剰発現は筋原細胞の 筋肉への分化を阻害するとともに、血液幹細胞の枯渇を抑える。いくつかのPcGはがん遺伝子でがんに過剰発現されている。

PcG研究の進展にかかわらず正確な分化と細胞運命決定のメカニズムは不明である。そこでchipでのゲノムワイドなスクリーニングを試みた。PcGはいくつかのアンチオンコジーンを抑制している。

図1 増殖中のヒト胎児ディプロイド繊維芽細胞にsiRNAトランスフェクト44時間後ウェスタンでタンパクの減少を確認。U133でみて 341遺伝子の変動を確認した。RT-PCRで確認した。MT1G メタロチオネイン1G CCND2 サイクリンD2 HOXA5 TGFB14 CYP1B1 SERPINB2は別名PAI2 が増え、CCA2 CDC6が減っている。この2つは転写因子E2Fのターゲットである。

図2 chip on chipでのSUZ12(PRC2) H3K27Me3 CBX8(PRC1) E2F3の分布  E2F3 以外はHOXAローカスで同じ分布を示している。ポルIIはHOXA4とA5に結合していてこの2つはこの細胞で発現している。(Cの一番下)

図3 カスタムデザインのアレーを作り変化した341遺伝子への結合を解析した。
BMP2, ATF3, (DKK2)ではTSS近傍でのベルカーブ型の結合をみた。CCND2では毛布型の広い分布をみた。BMI-1にもSUZ12やCDX8の結合がみられた。

図4 プロモーターアレーでの解析
ショウジョウバエからヒトで保存されている遺伝子群がK27Me3とCBX3とSUZ12で重なった。実際には、HOXA-D, レチノイン酸, PAX, FGFシグナル、SOX, FOX 因子、ポリコーム、ノッチシグナル、TLXシグナルNR2E1、TGF経路、Wnt経路、ヘッジホッグ経路などの遺伝子が同定された。

表1 分化関連遺伝子のchip-chipでのPRC結合の同定
図5 分化の間での結合低下と発現上昇の相関 ZIC1 Meis2
発現低下の遺伝子では最初からPRCの結合あり、あまり増えない 

図6 PRCは分化していない細胞の活性化されたHOX遺伝子座に存在している。
A レチノイン酸分化 
B この時の定量的PCRでのmRNA測定
C 結合の変化 前半HOX遺伝子への結合きえるのはいいが後半は転写が増加してもかわらない。一方 HOX9-13やNeurog2 Oligo2ではパラドキシカルな結合。

文献2
Identification of SUMO-dependent chromatin-associated transcriptional repression components by a genome-wide RNAi screen Molecular Cell 2008 vol28 p742-754

SUMOによるタンパク質修飾はAos1/Uba2のE1活性化酵素、Ubc9のE2結合酵素、U3リガーゼで行われ多くの標的は転写因 子である。この反応はリバーシブルでイソペプチダーゼによるSUMO除去が行われる。発芽酵母、線虫、ハエで共通である。無脊椎動物は1種のSUMOでほ 乳類は4種のSUMOタンパク質がある。変異でSUMOが起こらないようにするとステロイドホルモン、Lef1、C/EBP、Elk1、SP3などで転写 活性が上昇するので、転写抑制的に働いていると思われる。このメカニズムは不明である、第一のモデルはSUMO化されたLef1はPML小体に集まるとい う。第二のモデルは、SUMO化によってコレプレッサーがリクルートされる。HDACや抑制的複合体のDaxxの結合が報告されている。

SUMO解析の問題は、
 第一に、タンパク質の極一部分のみがSUMO化されるが、変異体の導入は転写に大きな影響を与える。このことは、クロマチンレベルでの影響を考えさせる。
 第二に、SUMO化の阻害剤がないため、非特異的プロテアーゼ阻害剤のNEMが用いられる。
 第三に、酵母2ハイブリッドでは非生理的な強い相互作用が検出される。

 この解決のため、ゲノムワイドなRNAiスクリーニングを企画した。SP3のSUMOによる転写抑制をモデルに、MEP1、Mi-2、 Sfmdt (ヒトポリコーム遺伝子L3 MBT L1ホモログ)がつりあげられた。これら三者は相互作用し、免疫沈降でnativeなMEP1、Mi-2とロバストな相互作用が確認された。ステーブルに トランスジーンされた領域へのSUMO依存的な三者の動員も確認された。NativeなマウスのMi-2とL3MBTL1のDHFRプロモーターへの結合 は、SP3-/-マウス由来のMEFでで消失することも確認された。

図1 smt3(ショウジョウバエSUMO)で551番目のリジン修飾されるとショウジョウバエのSp3は不活性になる。レポーターとし てGC-rich配列を2回にTATAのあとfirefly Luciferase を(GC)2Flucと呼ぶ。実験ではKc167ショウジョウバエ細胞にこの40ngの(GC)2Flucと、2ngのSp3をコトランスフェクトする。 効率測定に2ngのpPacRenillaLucを用いる。 Sp3K551R変異体はSUMO化されないのでコントロールに用いる。SUMOのRNAi がSUMO経路を阻害するとWTは活性化する。K551R(すでに活性型)では変化しない。Ubi63p(ショウジョウバエのユビキチン)のRNAiでは 低下はみられない。 RNAiしたのとしないのでFluc/Rlucを比較する(図D)。duplicateでよい一致を示す。図Eでは3倍以上の違いの でた候補を選択した。図Fでもう一回duplicateで確認し、上昇したのをとった。384well プレートで細胞を破壊してオートメ化した機械で測定した。

図2 duplicateで265をひろいだした。Triplicateで185個をひろう。SV40 5 XGCFLuc とSp3のWTのsmall isoform 略してWtsi、またはK551Dsiをトランスフェクトし比を計算する。SUMO以外でsp3を不活性化するものを96ウェルで除外し120個をひろっ た。 主なものをあげると ubc9はE2、Su(var)2-10(ショウジョウバエのPIAS)はE3。このスクリーンはSUMO化のところと、下流 のところが区別つかない。

図3にSUMO化されたSp3の蛋白量をウェスタンで測定した。SUMO 化にかかわるものはSUMO-Sp3を減らすと考えたからである。 SUMO化がへったのはSUMOとUbc9とPIASの他には2個だけであった。Jraはjun related protein(ショウジョウバエのjun) 他の15個はSUMO-Sp3が変わらないか増加した。

図4 候補遺伝子の複数のRNAiによる活性化の確認
SUMO経路で、核タンパクで、直接的なDNA結合タンパク質でない候補として、Mi-2はchd4またはLET418といい脱アセチル化にかか わるNuRD複合体のATP依存性のクロマチン、chd3はその類似物、MEP1は7個ジンクフィンガーをもつ、sfmbtはポリコーム(メチル化ヒスト ンに結合する H3K9 Me1-2, H4K20 Me1-2)、sbbはジンクフィンガー、を検討した。これらはウェスタンで核にあり、RNAiで減少した。

図5 HDACはsp3-SUMO抑制の関係ないことを示すデータ
ショウジョウバエNuRDはMi2の他、ヒストン脱アセチル化酵素RPD3などからなる。PRD3のRNAiは図Cに示すようにタンパク質減少に有効だが、転写活性化はしない。図Dに示すようにトリコスタチンやニコチンアマイドNAM などの阻害剤は無効である。

図6 SUMO化に依存したMEP-1,Mi-2,SfMBTのリクルート
ショウジョウバエのSUMOとヒトSUMO1との相互作用をみるとMEP1>Mi2>sfMBTであるがいずれもGST-SUMOと結合し (A)、Sp3とも結合した(B). 次にクロマチン免沈でSp3によりSUMO依存的にこれらがリクルートされることをみた。Cu2+依存的にWT-Sp3かSUMO化異常Sp3を誘導して みるとSUMO依存的にリクルートされることがわかる。 図DEではGSTで結合をみた。三者が複合体を作ってプロモーターSp3に結合している。

図7 マウスdhfrプロモーターでのMi2とL3mbtL2の結合。
 ほ乳類のdhfrプロモーターではSp1が促進的でSp3が抑制的である。Sp3欠損ではMi2とL3MBTL2がなくなる。

文献3
L3MBTL1, a histone methylation dependent chromatin lock  Cell 129, 915-928
L3Mbtl1は、Hib、HP1g、Rbと複合体を作り、H4K20 Me-1,2とH1bK26 Me-1,2に結合する。L3MBTL1はE2Fで制御される遺伝子を抑制する。

図1 L3MBTL1の複合体精製とクロマチン圧縮 compaction
真核細胞FLAGと大腸菌GST-3MBTの発現。ショ糖濃度勾配でのヌクレオソームとまぜて精製。クロマチン圧縮の検証 各ピークのフラクションを電顕でみた。サイズがかわっている。

図2 H4K20モノメチルがクロマチンへの動員とクロマチン圧縮に十分である。
A ペプチドアフィニティーカラムへの結合
B 電顕での圧縮の証明 リコンビナントのヌクレオソーム再構成系 PR-SET7でH4K20モノメチル化されているものに、精製タンパク質を加えた。
C Nuclear extractとまぜたL1,L2はHP1gとRbと結合 L3はHP1aと結合
D L3MBTL1依存的なHP1g結合
E L1N端側でのHP1g結合

図3 L3MBTL1のH1bとのin vivo および in vitroでの結合。
A HEK293細胞にFLAG-L3MBTL1またはL2とH1bをコトランスフェクトするとL1がH1bと結合する。
B H1bは結合するがH1oは結合しない。
C H1bK26A変異で結合しなくなる。H1bK26またはその修飾を認識している可能性
D ペプチドアフィニティーでの検討 Me1またはMe2は結合するがMe0またはMe3はしない。
E 3つのMBTドメインのうち2番目P2aが結合に必須である。
F 発現させた全長のタンパクでもP2a変異によりH1bK26me1結合がなくなる。H4K20Me1も結合し、P2a変異で結合できなくなる。

図4 再構成されたH1bK26Meを含むヌクレオソーマルアレーはL3MBTL1で圧縮される。
前提としてH3K9が基質のメチル化酵素G9aはH1bK26をmonoおよびdimethyl化する。H3K9とH3K27とH1bK26周辺の配列はよくにているが、これらのペプチドをL3MBTL1は認識しない。
A 結合
B 圧縮アッセイ Nishiokaの方法  2ugのヌクレオソームアレーを使い、リコンビナント3MBT タンパクとまぜたあと、ショ糖勾配の上にのせて分離する。リコンビナントコアヒストンはp300でアセチル化されているがH1それ自体は圧縮できない。 G9a methylated H1bはDNAの端に多くみられ、真ん中はむきだしのDNAである。ルーピングする場合と、圧縮する場合がある。
D H4K20me1ビーズへの結合がH1K26me2で抑制される。
E His-3MBTにペプチドを加えて、ニッケルカラムで精製して、それをH4K20me1カラムに結合をみるとH1K26me2はH4K20 結合を阻害するが、H1K26me3は阻害しない。
Table1 nH1は正常のH1ミックス rH1bは組み替えH1bをG9aでメチル化 PR-SET7は、H4K20のmonomechylation.をおこす。

図5 L3MBTL1標的のchipアッセイ
RbはE2Fファミリーの転写因子の結合を阻害して細胞周期の進展を制御する。図1AでL3MBTL1?FLAGはRbと結合している。E2F標 的のうちmycとサイクリンE1(ccne1)に結合していることがchipアッセイでFLAG抗体またはL3MBTL1抗体を用いて示された。RNAi で結合量は減少した。

図6 モデル
H1K26me1/2またはH4K20me1/2に結合し、H3K9me2/3やH3K27me1/2/3には結合しない。binding model 左側 2つのヌクレオソームに1?2個のMBTタンパクが結合する。Aasociation model 右側