2008年5月22日

Epigenetic Working Memory? Monoubiquitinated H2B is associated with the transcribed region of highly expressed genes in human cells. -Minsky et al. Nature Cell Biology 2008 Apr;10(4):483-8. を読んで

ヒストン修飾と転写活性の関係を ChIP-chip で見た論文。
Monoubiquitinated H2B (ubH2B)には今まで良い抗体が無かったそうで、まず著者らが作製した抗ubH2Bモノクローナル抗体の話から始まります。H2Bと ubiquitinの結合部分を分枝ペプチドとして合成し、それで免疫を行ったのが功を奏したとのこと。
実験は、HCT116(ヒト大腸癌cell line)の培養細胞を
・通常のexpression microarray
・著者らが作製した抗ubH2B抗体でChIP-chip (*1)
・抗H3K4me2抗体でChIP-chip (*1)
これらの解析(*2)にかけ、遺伝子発現とヒストン修飾状況の関係を調べた、というもの。
*1 TSS(転写開始点)上流7.5kb と TSS下流2.45kb をカバーした promoter tiling array を使用。
*2 TSSを基点としたポジションごとに、そのポジションでの修飾度(ChIPのシグナル)と発現値とのピアソン相関係数を計算(発現データが取れた16,101遺伝子分のデータを使用)しグラフ化。
その結果、
・TSS下流の転写領域におけるH2B ubiquitinationは発現上昇に寄与するが、TSS上流のubH2Bはあまり発現量に寄与しない
・H3K4me2は、TSS上流1kbおよび下流1kb周辺において特に発現上昇に寄与する
というパターンが観測されています。個別の遺伝子別に見ると、発現が高い遺伝子のヒストン修飾パターンは *2のグラフの形に近いという傾向があるようです。
transcribed region の ubH2B修飾が発現量と相関していることから、著者らはpromoterでのinitiationよりむしろelongationが高発現のための律速段階になっている、という概念を支持。
以上は定常状態にある細胞を用いた実験の話ですが、次に著者らはH2B ubiquitinationがどういった時間経過で付け外しされるのかを調べる実験をしています。
対象はp53によって発現が誘導されるp21で、p53の温度感受性変異(*3)をもつH1299-tsp53細胞を用いて温度変化によって人為的にp53を活性化/不活性化し、それに伴ったp21遺伝子のヒストン修飾および転写活性の時間変化を観測。
*3 37℃では不活性な状態にあり、32℃で活性化された状態になるp53。
すると、
p53活性化から30分程度でH2B ubiquitinationが起こると共にpol IIがrecruitされる
→ その後を追う形で p21 mRNA量が上がってくる
→ 活性化後150分のところで温度を変えp53を不活性化
→ 不活性化後60分程度の間にubH2Bのレベルは低下し、pol IIも離れる
という dynamic な修飾着脱現象が観察されました。
Epigenetic memoryと呼ばれるものとしては、世代を通じてlong-termに残るimprintingなどが有名ですが、このように転写の真っ最中に dynamicに付け外しされるubH2Bのような、epigenetic working memoryとでも称せそうなshort-termな修飾もあるんだ、ということで。
転写過程には、エンジンかける(転写開始)、アクセル踏む(転写効率アップ)、ブレーキ踏む(転写終息)、といったような他段階の制御があり (さらには、アイドリング(pausing)などなど?)、それらがcontextに応じて様々な修飾によって実現されている仕組み。
うまいことカスタム&チューンしてやりたいものです。
(Kazuki Yamamoto)