2008年5月14日

CSH Genome & Biology会議(5月6~10日)

 Genome & Biology会議は毎年5月に開催され、2003年のヒトゲノム解読後この1、2年はgenetic variationとくにSNPおよびCNVの解析が主要なトピックとなっており、昨年は糖尿病やがんなど多因子性疾患についての関連遺伝子座の報告が目 立つものであった。それに対して、今年は殆どのトピックについて高速シーケンサーを用いた発表が非常に多いことが印象的であり、おそらく550人と云う史 上最高の参加者を記録した。

 4/29に国際がんゲノムシーケンシンングコンソーシウムの発表が行われたこともあり、最初のセッションはがんゲノムシーケンシングに ついてであった。SangerセンターおよびBroad研究所などから、肺がんおよび乳がん細胞株のシーケンシング解析からは染色体のリアレンジメントの 検出が報告された。全ゲノムをショットガンシーケンシングするコストが未だ高いこともあり、特定の領域を選択的にシーケンシングする手法の開発などが目に ついた。200塩基(170+アダプター15x2)のオリゴをアレイ上で合成したのち、アレイから分離したオリゴプールをcaptureに用いるものであ る。

 Copy number variationやシーケンシングデータに基づく比較ゲノム学からも多くの発表が行われた。これまでの技術はdiscoveryであり、関連解析に用い るには正確なgenotypeを網羅的に行う技術の開発が必要と思われる。コピー数についてはde novo変異が報告されているが、世代間のヒトゲノムの安定性についても今後理解が進むと期待される。

 High throughput biologyのセッションでは高速シーケンサーを用いた新たな解析法の報告が行われた。ペアエンドの配列決定はスプライシングやゲノム異常の検出に必須 であることから、ライブラリー作成に関する手法が報告された。Epigenomicsに関する技術としてはメチル化検出について、bisulfite処理 を用いたショットガンシーケンシングは高コストであることもあり、制限酵素を用いてCpGが豊富な配列を濃縮後、bisulfiteシーケンシングする手 法がBroad研究所のグループ(Nussbaum)により報告された。90%程度のCpGアイランドをカバーでき、スループットも高いと考えられる。

 解析技術に加えて、ゲノム配列の機能解読が進んでいる。ヒトゲノム中の蛋白をコードする遺伝子数は2万あまりと考えられる一方、ゲノム上の転写活性領域に注目したあらたなnon-coding RNAのクラスについても報告された。

ジャンクと思われていたAluやLINEなどの繰り返し配列、トランスポゾンがインスレーターを含む新たな転写調節機能を獲得する際に大き な役割を担っていることが印象づけられた。ChIP-seqやゲノム構造多型に関する機能配列情報が今後加速的に増加していくことが予想され、配列レベル の情報処理への対応がボトルネックになるであろう。

 ELSIのセッションはパーソナルゲノムをビジネスとして打ち出している3社(23andMe, Navigenics, deCODE)を交えたパネルディスカッションが行われ、情報のセキュリティ、解析結果の解釈、被検者への情報提供についての慎重論も目立った。

 ゲストスピーカーの一人(Michael )はショウジョウバエ発生に関する3つの転写因子のChIP-chip解析を中心にしたものであった。個別遺伝子を対象としていた転写あるいは発生の研究 者が一気にゲノム技術を取り入れていることがあらためて印象づけられた。ゲノム学の研究者に対する啓蒙を含んだ講演であったとは思われるが、クロマチン構 造にまで踏み込んだものではなかった。

 もう一人はゲノム進化に関する講演であった。

 多くの発表はしばらくの期間はネットを介しstreamingで閲覧できるので、希望に応じてfloor meetingなどの際に紹介したい。