2008年5月29日

Chromosomal Soap Opera Cell (21 Mar. 2008号)の表紙を飾った論文。 Nuclear Receptor-Enhanced Transcription Requires Motor- and LSD1-Dependent Gene Networking in Interchromatin Granules.

-Nunez et al. Cell, Vol 132, 996-1010, 21 March 2008
"Hormone-Induced Chromosome Kissing" と題し、FISH(*1)の輝く星空のもと、ロマンティック?な男女のシルエットがあしらわれているニクイ表紙です。
*1 Fluorescent In Situ Hybridization
題名が示す通り、キッスするのはホルモン(エストロゲン)に刺激された染色体。
・特定の相手と kiss をする
・kiss するとお互い active になる
・kiss するとともに、特定のスポットに移動
...といった営みが観測されるんだそうで。
言い換えますと:
・エストロゲン刺激によって発現が誘導される遺伝子群のうち、特定のペアの遺伝子が核内で近くに 寄っていき、それら遺伝子のlocus同士がくっついて "染色体のキス" の状態になる (論文中ではinterchromosomal interactionと表現)
・発現中 kissing が起きている状態と起きていない状態とを比べると、前者における発現の方がより アクティブになっている
・kissing している遺伝子ペアは、nuclear speckle と呼ばれる核内構造と共局在している
転写現象の可視化を非常にうまいことやってのけた仕事です。
まず、キスしていそうなペアをスクリーニングする作業を、著者らが開発した3Dなる方法でこなしています。 3Dは Deconvolution of DNA network by DSL (DNA Selection, Ligation)の略だそうで、3C(*2)で得た ligation産物のうち注目したいものを、エストロゲン刺激で発現が誘導される遺伝子のエンハンサー配列のビオチン付きオリゴで釣ってきて(DNA Selection)、その産物をTiling Arrayにかけることで誰がキスしているのかアタリをつける、というやり方。
*2 Chromosome Conformation Capture: 核内で位置的に近く存在している配列を検出する手法。
固定したクロマチンを制限酵素で切断したのちligaseを作用させることで、近接して存在している 配列同士だけをligation産物として得る。
そして、同定されたペアをひたすらにFISHで可視化。各種ファクターを阻害剤やRNAiでひとつひとつツブしてやることで、kissing現象に必要な因子が何であるかを検討しています。
・polII translocation, ERα, FoxA1, CBP, SRC, PBP → 邪魔してやるとkissが起きなくなる
・アクチン、ミオシンやダイニンを邪魔することによっても、kissが起きなくなる
・LSD1 → 邪魔してもkissは起きるが、speckleへの移動は起きなくなる
どうやら、kissingを起こすメカニズムにはnucleoskeletonが関与した能動的な力が寄与しているようです。
Nuclear speckle (interchromatin granule)は、splicing factorsやその他 転写機構に関わる因子のstorage siteとして認識されてきた構造だそうですが、単なるstorageではなく、複数遺伝子の転写の営みをhubにまとめて効率よく行うための "factory" としてdynamicに生滅するものなのかもしれません。
こういった巧みな協調的遺伝子制御の総体は、kiss-omeとでも言うべきでしょうか。
ひとえにkissと言っても、kissの相手が特定のもの/相手が不特定多数のもの/kissする相手がいないもの、...など色んな性格の遺伝子がありそうな?
(Kazuki Yamamoto)