2008年5月15日

第2回エピジェネティクス研究会年会(5月9~10日)

 エピジェネティクス研究会は、近年のエピジェネティクス研究の潮流を受けて昨年に設立された新しい研究会で、さまざまな分野のエピジェネティクスの研究 者が一堂に会して意見交換を行うユニークな会である。第2回となる今年は、国立遺伝学研究所のある三島(静岡県)で開催され、13題の口演と88題のポス ター発表で活発な討論が行われた。先端研からは金田篤志准教授・永江玄太研究員・大学院生八木浩一氏・鄧穎氷氏が後述する4題の発表を行った。

 エピジェネティクス研究と一言でいえども、DNAメチル化、ヒストン修飾やクロマチン制御、small RNAなどさまざまであり、また、解析対象も酵母やショウジョウバエから高等植物・脊椎動物まで、多岐に及んでいる。

 DNAメチル化の網羅的解析では、MeDIP法(メチル化DNA免疫沈降法)を用いた発表がいくつかみられた。今年になって Arabidopsisにおいて次世代シークエンサーを用いたBSS法(Bisulfite Shotgun Sequencing)の論文も出てきているが、メチル化DNAの検出においてさまざまプラットフォームを用いた手法が模索されている。ヒトやマウスな ど、反復配列を含む大きなゲノムでの解析応用に対して大きな期待が寄せられていた。

 疾患のエピジェネティクスでは、癌のエピゲノム異常の発表が数多くある他、MeCP2変異で発症するRett症候群など精神疾患のエピ ジェネティクス異常の発表もあった。神経細胞分化では、DNAメチル化やヒストン修飾、バリアントヒストンのダイナミックな変化が遺伝子発現制御に密接に 関与しており、今後も注目されていくと思われる。

現在、新しい発見が続いているRNA分子によるクロマチン制御もトピックの一つであった。酵母のヘテロクロマチン内で転写されている non-coding RNAや、マウス精子形成においてPIWIファミリーに結合するpiRNAとde novoメチル化の関係について発表などがあった。

ポスター発表からのショートトークセッションでは、先端研と熊本大学の共同研究が進んでいるCTCFによる遺伝子発現制御の演題も選ばれていた。インスレータータンパクであるCTCFとクロモゾーム高次構造の関連が徐々に解明されつつあった。

先端研からの発表は以下の通り。

IGF2遺伝子LOIによる腸管腫瘍リスクと腫瘍リスク低減モデル(金田篤志)

H19 DMR欠失マウス(LOIマウス)ではApcMinマウスとの交配実験や発癌剤投与実験により腸管腫瘍発症のリスクが上昇していることが示され、さらに IGF2シグナル阻害剤の投与によってこのリスクが低減することが実証された。このモデルによって、エピゲノム異常IGF2 LOIに対するIGF2シグナル阻害が癌リスクの低減に有効であることを提唱。

肝癌におけるゲノム・エピゲノム異常の統合的解析(永江玄太)

MeDIP-chip法によるDNAメチル化の網羅的解析法を肝癌臨床検体に応用し、176の癌特異的メチル化候補遺伝子を選出している。さらに同 一検体における染色体コピー数解析とデータを統合し、ゲノム・エピゲノム異常の双方により機能的不活化を来たしている遺伝子を同定。

MassARRAYによる大腸癌の定量的メチル化解析(八木浩一)

大腸癌細胞株HCT116について、MeDIP-chip法および5Aza投与前後の発現解析を行い、60の異常メチル化遺伝子を抽出している。こ れらについて、質量分析器を用いたメチル化定量解析であるMassARRAY法で、大腸癌臨床検体74例、正常大腸粘膜9例および大腸癌細胞株5株のメチ ル化プロファイルを報告。

肝癌における異常メチル化にともった遺伝子発現抑制の網羅的解析(鄧穎氷)

肝癌細胞株Hep3Bを用いて、DNAメチル化の遺伝子発現抑制への寄与を解析している。MeDIP-chip法により異常メチル化遺伝子を網羅的に探索し、5Aza投与前後の発現解析との比較検討を報告。