2008年5月29日

読めばわかる Solexaを用いてRNA-Seq (*1)を行った論文がCell, Science, Natureに1本ずつ出揃いましたところで

(i) Highly integrated single-base resolution maps of the epigenome in Arabidopsis.
-Lister et al. Cell. 2008 May 2;133(3):523-36.
(ii) The transcriptional landscape of the yeast genome defined by RNA sequencing.
-Nagalakshmi et al. Science. 2008 Jun 6;320(5881):1344-9.
(iii) Dynamic repertoire of a eukaryotic transcriptome surveyed at single-nucleotide resolution.
-Wilhelm et al. Nature. 2008 May 18.

*1 高速シーケンサでRNA一本一本の配列を読んでしまう力技。
(i) Arabidopsisを対象に、cytosine methylome (MethylC-Seq), transcriptome (mRNA-Seq),
small RNA transcriptome (smRNA-Seq)を解析した論文。
(ii) Budding yeastのtranscriptomeをRNA-Seqで見た論文。
(iii) Fission yeastのtranscriptomeをRNA-Seqで見た論文。

(ii)・(iii)は対象が酵母。酵母のゲノムサイズは12~14Mbp程度で、Gbp単位で配列を読める高速シーケンサーを用いてしまえば、一塩基レベルの解像度に加え定量性(*2)も備えたゲノムワイド(*3)なtranscriptomeのデータが取得可能。

*2 マイクロアレイの場合は蛍光強度でRNAを定量しますが、RNA-Seqの場合、"配列として読まれた
回数" がRNA量に相当するデータとなります。Tiling arrayなどと比べても、RNA-Seqはより低ノイズ・高感度・高解像度な情報を得ることができている模様です。
*3 アレイの場合はプローブ設計していない部分のことは何も分かりませんが、転写産物の配列そのものを読んでしまえば設計の有無のような心配はありません。
RNA-Seqによって同定された新発見のtranscriptsも多く、実は酵母のゲノムの大半((ii)では約75%、(iii)では90%以上)は多かれ少なかれ転写を受けている、というのが(ii)・(iii)で共通に得られている知見のようです。(*4)
non-coding領域が秘めている機能性がうかがわれます。
*4 配列の解読が30~40bpのshort reads から成るというSolexaの性質上、ゲノム上でリピートされている配列は1ヶ所にマッピングしづらいため、対象をnonrepetitive sequenceに限った解析です。
また、転写産物がどこから始まってどこで終わっているかもキレ良く見えるので、untranslated region (UTR)やsplicingの切れ目なども つぶさに観察可能なようです。
(iii)の論文では spliced/unspliced transcriptsの比較から、"発現量とsplicing効率は正の相関をする" といったデータも示されており、転写機構とsplicing機構の連動が示唆されています。
一方、Arabidopsis(ゲノムサイズ119Mbp)の epigenome を扱った(i)の論文は、mRNAやsmRNAのRNA-Seqのほか、Bisulfite Sequencing(*5)とSolexaを組み合わせたMethyl-Cytosine-Seqもやりおおせています。
Solexaを仕様外のサイクル数(49~56 cycles)回してsequencing depthを上げたりと、この著者らは相当Solexaを使い込んでいそうな雰囲気。
*5 DNAをsodium bisulfite処理すると、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換されるがメチル化されているシトシンはシトシンのまま残るのを利用して、配列解読と合わせメチル化状況を同定する。
MeDIP (Methylated DNA ImmunoPrecipitation)もしくは mCIP (methyl-Cytosine ImmunoPrecipitation)と呼ばれる免疫沈降法によるメチル化マッピングよりも、bisulfiteとSolexaのコンボの方が高解像 度。
Seqデータの可視化ツールも早速用意されていて、次のURLで見られるようになっています。 http://neomorph.salk.edu/epigenome/ (※ Firefoxでないと見られないようです)Ajaxな感じのインターフェースで、Web 2.0 Technologyと称して自慢げに紹介されています。開発期間はどのくらいなのでしょうか。仕事が速いです。 ...と、この文を書いている間にも今度はmammalianでのRNA-Seqの仕事が報告されていたり。 Mapping and Quantifying Mammalian Transcriptomes by RNA-Seq
-Mortazavi et al. Nature Methods. 2008 May 30.
(RNA-Seq解析パッケージ: http://woldlab.caltech.edu/rnaseq/)
"速読" ができないとキビシイ世の中?
(Kazuki Yamamoto)