2007年10月 9日

腎細胞癌に対する新規治療標的分子TLR3

 進行性腎細胞癌に対しては従来の化学療法や放射線療法が全く効かないことから、腎細胞癌に対する新たな治療法の開発が望まれてきました。 一方、ごく一部の腎細胞癌症例にはインターフェロン療法が奏功するという、他の癌とは異なった特徴が知られています。
 ゲノムサイエンス研究室の森川鉄平(東京大学 医学系研究科修了、現 人体病理学教室助教)らは、腎細胞癌に対する新規標的分子の探索のため、DNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行い、toll-like receptor 3 (TLR3)が腎細胞癌特異的に発現亢進していることを見出しました。 TLR3はリガンド刺激によりインターフェロンの産生を誘導して自然免疫応答に働く分子であり、腎細胞癌に対する新規治療標的となる可能性が示唆されまし た。
 抗TLR3モノクローナル抗体を用いた免疫染色では、腎細胞癌の原発巣189例中139例(73.5%)および肺転移巣8例中6例(75%)で、癌細胞特異的なTLR3の発現亢進が確認されました。 腎癌細胞株を用いた解析では、リガンド刺激によって腎癌細胞におけるインターフェロン産生およびアポトーシスが誘導され、TLR3依存的な増殖抑制効果が発揮されることがわかりました。 さらに、インターフェロンとTLR3リガンドが腎癌細胞株に対して相乗的な増殖抑制効果を発揮することがわかりました。
 以上のことから、腎細胞癌で特異的に高発現しているTLR3は、腎細胞癌に対する有望な新規治療標的であると考えられます。

Teppei Morikawa, Akira Sugiyama, Haruki Kume, Satoshi Ota, Takeshi Kashima, Kyoichi Tomita, Tadaichi Kitamura, Tatsuhiko Kodama, Masashi Fukayama, and Hiroyuki Aburatani.
Identification of Toll-like Receptor 3 as a Potential Therapeutic Target in Clear Cell Renal Cell Carcinoma.
Clinical Cancer Research 13(19):5703-9. 2007

PubMed
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